この記事では小説家・綾辻行人のおすすめ作品を紹介している。これまでに出版された綾辻行人の小説をすべて読んだうえで、私のベスト5を選定した。
綾辻行人作品を読むときの参考にしていただければ幸いである。
綾辻行人の作品リスト
まずは、今回のランキングの対象となる綾辻行人の作品の一覧である。小説以外の作品は対象外としている。
- 十角館の殺人 (1987年、講談社ノベルス→1991年、講談社文庫→2007年、講談社文庫<新装改訂版>→2008年、YA!ENTERTAINMENT)
- 水車館の殺人 (1988年、講談社ノベルス→1992年、講談社文庫→2008年、講談社文庫<新装改訂版>→2010年、YA!ENTERTAINMENT)
- 迷路館の殺人 (1988年、講談社ノベルス→1992年、講談社文庫→2009年、講談社文庫<新装改訂版>)
- 緋色の囁き (1988年、祥伝社ノン・ノベル→1993年、祥伝社文庫→1997年、講談社文庫)
- 人形館の殺人 (1989年、講談社ノベルス→1993年、講談社文庫→2010年、講談社文庫<新装改訂版>)
- 殺人方程式 切断された死体の問題 (1989年、光文社カッパ・ノベルス→1994年、光文社文庫→2005年、講談社文庫)
- 暗闇の囁き (1989年、祥伝社ノン・ノベル→1994年、祥伝社文庫→1998年、講談社文庫)
- 殺人鬼 (1990年、双葉社→1994年、双葉ノベルス→1996年、新潮文庫)
→ 殺人鬼Ⅰ 覚醒篇 (2011年、角川文庫、改題) - 霧越邸殺人事件 (1990年、新潮社→1995年、新潮文庫→2002年、祥伝社ノン・ノベル→2014年、角川文庫、上下巻)
- 時計館の殺人 (1991年、講談社ノベルス→1995年、講談社文庫→2006年、双葉文庫→2012年、講談社文庫<新装改訂版>、上下巻)
- 黒猫館の殺人 (1992年、講談社ノベルス→1996年、講談社文庫→2014年、講談社文庫<新装改訂版>)
- 黄昏の囁き (1993年、祥伝社ノン・ノベル→1996年、祥伝社文庫→2001年、講談社文庫)
- 四○九号室の患者 (1993年、森田塾出版→1995年、南雲堂)
- 殺人鬼Ⅱ 逆襲篇 (1993年、双葉社→1995年、双葉ノベルス→1997年、新潮文庫)
→殺人鬼 逆襲篇(2012年、角川文庫、改題) - 鳴風荘事件 殺人方程式Ⅱ (1995年、光文社カッパ・ノベルス→1999年、光文社文庫→2006年、講談社文庫)
- 眼球綺譚 (1995年、集英社→1998年、祥伝社ノン・ノベル→1999年、集英社文庫→2009年、角川文庫)
- フリークス (1996年、カッパ・ノベルス→2000年、光文社文庫→2011年、角川文庫)
- どんどん橋、落ちた (1999年、講談社→2001年、講談社ノベルス→2002年、講談社文庫→2017年、講談社文庫<新装改訂版>)
- 最後の記憶 (2002年、角川書店→2006年、角川ノベルス→2007年、角川文庫)
- 暗黒館の殺人 (2004年、講談社ノベルス、上下巻→2007年、講談社文庫、全4巻)
- びっくり館の殺人 (2006年、講談社→2008年、講談社ノベルス→2010年、講談社文庫)
- 深泥丘奇談 (2008年、メディアファクトリー→2011年、MF文庫ダ・ヴィンチ→2014年、角川文庫)
- Another (2009年、角川書店→2011年、角川文庫、上下巻→2012年、角川スニーカー文庫、上下巻)
- 深泥丘奇談・続 (2011年、メディアファクトリー→2013年、MF文庫ダ・ヴィンチ→2014年、角川文庫)
- 奇面館の殺人 (2012年、講談社ノベルス→2015年、講談社文庫、上下巻)
- Another エピソードS (2013年、角川書店→2014年、KADOKAWA<軽装版>→2016年、角川文庫)
- 深泥丘奇談・続々 (2016年、KADOKAWA)
- 人間じゃない 綾辻行人未収録作品集 (2017年、講談社)
それでは、以下からベスト5の発表である。
※一部サムネイルが当該作品ではなく関連作品になっていますが、リンク自体は正常です。
第5位『十角館の殺人』
第5位は『十角館の殺人』である。
綾辻行人のデビュー作。やはりまずはこれを読まなければ始まらないだろう。いわゆる「新本格」の嚆矢となった作品であり、作者の代表作となる「館シリーズ」の第1作である。日本の本格ミステリの歴史を語るうえでも外せない作品といえる。
いちばん見どころはもちろん、多くの読者が騙されたトリックである。このトリックに魅了されたがゆえに、どんでん返しのある小説が好きになった人間が数多くいるはずだ。場合によっては、これくらいの意外性がなければミステリとして楽しめない、という体質になってしまうかもしれないので、注意が必要である。
トリックを知ったうえで改めて読むと、私は綾辻作品の「雰囲気」が好きなのだと実感する。『十角館の殺人』の舞台は「孤島に建つ館」という閉鎖的な空間なのだが、この作品にかぎらず綾辻行人の小説にはいつも「閉鎖的な雰囲気」があって、その空気に触れているのが楽しいのだ。私が綾辻作品を追いかけるようになったのは、間違いなくトリックよりも「雰囲気」が理由である。
第4位『眼球綺譚』
第4位は『眼球綺譚』である。
綾辻行人の最初の短編集で、ホラー小説が7編収録されている。おもにミステリ作家として認識されている綾辻行人だが、ホラーの書き手としても優れた才能を持っていることがこれ一冊を読めばわかることだろう。
「読んでください。夜中に、一人で」というフレーズが印象的な表題作のほか、読者人気の高い『再生』『特別料理』など、ミステリらしいロジックの通った話から、説明のつかない不条理な話まで、幻想と怪奇の世界に耽溺できる物語がそろっている。
とくに『特別料理』は初めて読んだときに頭痛になったという思い出があり、個人的に印象深い作品だ。ほかには『呼子池の怪魚』が好みである。
第3位『霧越邸殺人事件』
第3位は『霧越邸殺人事件』である。
雪山に閉ざされた洋館を舞台にした、いわばもうひとつの「館」もの。重厚な大作で、事件が起きるまでが少し長いが、豪奢な洋館とアンティークについての衒学的な蘊蓄、奇妙で謎めいた館の住人たち、そしてたしかになにか不思議なことが起きそうな予感に引っ張られて、ぐいぐいと読み進めることができる。作品の「雰囲気」ということでいえば、綾辻行人の最高峰といってもいいかもしれない。
いかにも本格ミステリの読者が喜びそうな道具立てをしながら、それだけにとどまらない挑戦的な作品で、その「挑戦」の部分が私は好きだ。本格と幻想が高次元で融合する傑作である。
第2位『深泥丘奇談』
第2位は『深泥丘奇談』である。
怪談専門誌『幽』に連載された作品をまとめた連作短編集。ただし、作者の言うように怪談というより、タイトルどおり「奇談」として読んだほうが素直に楽しめる作品だろう。作者が実際に住んでいる京都をモデルにした町を舞台に、やはり作者をモデルとした小説家が出くわす奇妙な出来事を綴った短編が9つ収められている。ジャンル分けすれば当然ホラーということになるが、ことさらに読者を怖がらせようとしているわけではなく、奔放な想像力を駆使して語られる「なんだか変なお話」といった感じだ。
さまざまな怪異に出くわす主人公だが、彼の周囲にいる妻、主治医、看護師らはそれらの怪異をあたりまえのように受け入れている、という世界観が、主人公と読者の日常を侵食してぐらつかせる。その趣向、感覚が私は好きだ。主人公は怪異に対してなにかアクションを起こせるわけでもなく、ただ状況を見つめていることしかできない。そうやって不条理な世界に埋没していく感じがとても気持ちいい。収録作のなかでは「丘の向こう」がいちばん好みである。
『深泥丘奇談』はシリーズ化されており、『深泥丘奇談・続』『深泥丘奇談・続々』とあわせて全3作となっている。第1作が気に入ったなら、自由度とおかしみが増していく続編にも手を伸ばしてみてほしい。
第1位『時計館の殺人』
第1位は『時計館の殺人』である。
おそらく「館シリーズ」のなかでいちばん人気の高い作品なので、これが1位というのはなかなか王道的な結果だろうと思う。大がかりなメイントリックと、それを生かすための舞台設定およびストーリー、そして謎が解かれていく論理的な過程、と本格ミステリとしての要素に申し分なし。おまけに幻想的な世界観もすばらしく、ケチのつけようがない。シリーズの5作目にして、ひとつの大きな到達点である。
「館シリーズ」は『十角館の殺人』から刊行順に読んでいくのが基本的にはいいと思うが、細かいことはあまり気にしないという人は、早い段階で『時計館の殺人』を読んでしまってもいいだろう。シリーズの順番を無視してでも、多くの人に手にとっていただきたい傑作だ。
まとめ
以上が、私の選ぶ綾辻行人作品のベスト5である。
綾辻行人はミステリとホラーの2本柱で作家活動をしているが、Amazonの評価などを見ていると、やはりミステリ、それも強烈などんでん返しのあるミステリを求められている風潮があるように思う。そういう読者の気持ちもわからないでもないのだが、私としてはあまりオチばかりにとらわれないほうが、ストーリーテラー・綾辻行人の作品を楽しめるのではないかと思っている。
これから綾辻作品を読もうという方には、どんでん返しがすべてじゃないよ、ということを僭越ながら申し上げておきたい。そのうえで、私のランキングを少しでも参考にしていただければ幸いである。