昨今、YouTubeに公式チャンネルを開設するお笑い芸人が増えてきた。この流れは今後しばらく、加速することはあっても減速することはないだろう。芸人にはテレビのなかでスター然としていてほしいというお笑いファンもいるかもしれないが、個人的にはYouTubeでいつでも笑える動画が観られるならそれでいいと思っている。
この記事では、2020年3月現在、私がおもしろいと思うお笑い芸人のYouTubeチャンネルを10本紹介する。おもしろい動画を日夜探している方の参考になれば幸いである。
Aマッソ『Aマッソ公式チャンネル』
村上愛と加納愛子によるコンビ、Aマッソのチャンネル。
女性であるということは芸人としてハンデとなることが多いが、それに加えて、なるべく自分たちの意思を曲げずに売れたいと考えているせいであんまり売れていない、ちょっと難儀なコンビ・Aマッソ。
YouTubeでは事務所の先輩であるアンガールズ田中から「テレビで売れる方法」を教わる企画などもおこなったが、その後もとくにテレビで売れる気配はない。加納がメイク動画をあげ、ついにYouTube視聴者にアジャストしにいったかと思いきや、実際のメイクの中身は斜め上の方向へ(芸人としては真っ当だが)。
こうなったら「売れたら奇跡」くらいの気持ちで、自分たちの道を突っ走っていってほしい。
かまいたち『かまいたちチャンネル』
山内健司と濱家隆一によるコンビ、かまいたちのチャンネル。
※当初は松本人志によって名づけられた『ねおミルクボーイ』というチャンネル名だったはずだが、これを書いている時点では『かまいたちチャンネル』となっていたため、このチャンネル名で紹介する。
コントも漫才もハイレベルにこなし、キングオブコント優勝やM-1グランプリ準優勝など数々の賞レースで結果を出してきたかまいたち。大阪を拠点に活動していたときには、過酷なロケ企画でもその実力を遺憾なく発揮していた。彼らほどの実力者が深夜枠ですらメインの番組を持てないとはなんとも世知辛いが、いまの時代にはYouTubeがあるのでよかった。
現時点ではネタの動画はあがっておらず、企画ものを中心にやっていくようだ。YouTuberの定番企画「モーニングルーティン」の動画では、プロの芸人の手にかかれば演者のプライベートに興味のない人間にもちゃんと届くおもしろいものになる、と証明してくれた。今後が楽しみである。
金属バット『金属バットの声流電刹』
小林圭輔と友保隼平によるコンビ、金属バットのチャンネル。
もともと『金属バットのラジオバンダリー』という番組名でラジオ動画をあげていたふたりだが、諸事情によりチャンネルは閉鎖。その後、新たにチャンネルを開設し、「ラジオバンダリー」の後継的な番組として始まったのが『金属バットの声流電刹』である。
声のみだった「ラジオバンダリー」時代とは異なり、ふたりが動画で登場しているが、だらだらとひたすら雑談のようなトークをするスタイルは変わらない。そのただの雑談がおもしろいのだから、たいしたものである。よく訓練されたリスナーたちからのメールもおもしろいものが多い。
一度ハマると、「ラジオバンダリー」時代から流れているオープニング曲「フィリピン国歌」が耳について離れなくなるので注意が必要だ。
くっきー!『サクくっきサク』
野性爆弾のボケ担当、くっきー!によるチャンネル。
YouTuberとして活動するカジサック(キングコングの梶原)の動画にゲスト出演した際、カジサックのチャンネル登録者数が100万人に達したらYouTubeチャンネルを作ると約束し、その公約を果たすために開設されたチャンネルである。「サクくっきサク」というYouTube用の芸名もカジサックに由来する。
初っ端からいきなり5時間近い動画をあげたり、次の更新日をサイコロで決めたり、 3つ目の動画のサイコロで「3ヶ月後」の目が出て、それから本当に3ヶ月間更新しなかったりと(「ヤメる」や「1年後」に比べればマシだったが)、くっきー!らしい型破りなスタイルはYouTubeでも変わらない。
現在はサイコロに変わり、ダーツで更新頻度を決めている。真ん中の「ヤメる」に当たらないことを祈ろう。
ジャルジャル『ジャルジャル公式チャンネル』
後藤淳平と福徳秀介によるコンビ、ジャルジャルのチャンネル。
メインコンテンツは「JARU JARU TOWER」と題されたシリーズ。2018年2月15日にスタートし、毎日1本ずつネタの動画をあげ、2039年11月8日までに8000本に到達させる予定だという、とても正気とは思えない企画である。
あげているネタは、ネタになる前の「ネタのタネ」だということだが、そうだとしても毎日コントの動画をあげつづけるジャルジャルは芸人として本当にかっこいい。パブロ・ピカソは膨大な数の作品を遺したことでも知られているが、それだけ量をこなせるということが天才の証なのだ。そういう意味で、ジャルジャルのふたりはきっと天才なのだと思う。
チョコレートプラネット『チョコレートプラネットチャンネル』
長田庄平と松尾駿によるコンビ、チョコレートプラネットのチャンネル。
コントやラジオのほか、ほぼ毎回ろくなことにならない「6秒クッキング」シリーズやYouTuberがよくやる「○○やってみた」系企画のパロディ「○○してみない」シリーズなど、完全にふざけきっている企画動画を多数あげている。
ネタでは長田がボケ、松尾がツッコミだが、企画の動画では松尾もほとんどボケなので、ツッコミは視聴者の役割である。「いったい彼らはなにをしてるんだろう? 自分はいまなにを見せられているんだろう?」と思ったら、画面に向かってツッコミを入れて楽しもう。
天竺鼠・川原『天竺鼠・川原チャンネル』
天竺鼠のボケ担当、川原克己によるチャンネル。
毎回「オープニング、オープニング♪」と子どもたちの声で繰り返されるなか、川原が謎の動きするというオープニングが数十秒流れ、そこでどれだけの視聴者を失っているのか心配になるチャンネルである。
ほとんどすべての動画のタイトルに「究極シリーズ」という言葉がつけられており、いったいなにが究極なのかさっぱりわからないのだが、動画の内容も意味がわかるんだかわからないんだかわからないものがほとんどで、でもとりあえずおもしろいことはわかるのでそれでいいのだと思う。
いろんな芸人が数珠つなぎに出演し、川原本人はほとんど登場しない、このチャンネルの極北ともいえる「鑑賞シリーズ」が今後どうなるのか楽しみである。
トータルテンボス『SUSHI★BOYS』
大村朋宏と藤田憲右によるコンビ、トータルテンボスによるチャンネル。
世界中の人に動画を観てもらうという目的のため、トータルテンボスのふたりがコンビの名前を「SUSHI★BOYS」とし、大村はTempura、藤田はFujiyamaと名乗って運営しているチャンネルである。
メインコンテンツは大村が藤田にさまざまなドッキリをしかける「いたずら」動画。トータルテンボスはドッキリがあろうとなかろうと常にカメラを回しているそうで、腐るほどドッキリをしかけられている藤田であっても、いつそのドッキリが降りかかってくるかわからないらしい。
尽きることなくネタを思いつく大村もすごいが、合意があるとはいえどんな目にあっても怒らず、リアクションもちゃんとおもしろい藤田もえらい。ネタばらしのあと、大村が「愛くるしいな~」と言って藤田のアフロをくしゃくしゃとかき乱す毎度のやりとりも気持ちがいい。
最近では、藤田以外のいろいろな芸人にドッキリをしかける動画もあげられている。
東野幸治『東野幸治の幻ラジオ』
いまや大御所芸人となった東野幸治によるチャンネル。
いまのところ、静止画で声だけのラジオ動画のみをあげているチャンネルである。周囲にスタッフも置かず、東野幸治がひとりでスマホで録音し、それを実の娘がYouTubeにアップするという、非常にこぢんまりとしたスタイルで運営している。
第1回目の動画でYouTubeを始めた理由が説明されているが、もともとラジオ局で始まるはずだった番組にスポンサーがつかず流れてしまったため、それならばとYouTubeでラジオをすることに決めたようだ。その経緯を訥々と話す様子が切なくもおもしろい。
静かな空気のなかで淡々と続く語りが心地よく、ラジオというもののよさを再確認させてくれるようなチャンネルである。
ロバート秋山『ロバート秋山の「クリエイターズ・ファイル」』
ロバートのボケ担当、秋山竜次によるチャンネル。
秋山がさまざまな職業の人間に扮し、架空の取材を受けるモキュメンタリーシリーズ「クリエイターズ・ファイル」。秋山の着眼点と観察眼、そして憑依力のすごさがわかる人気企画である。モノマネとも形態模写ともあるあるネタとも異なる芸で、まったくすごい金鉱脈を見つけたものだと思う。
私がいちばん好きなのは、パリコレNo.1モデル「ダルタニアン」を演じた回である。企画の説明をしたとき、共演の外国人たちがどんな反応を見せたのか、気になってしかたがない。
まとめ
以上が私の選ぶおすすめの芸人YouTubeチャンネル10本である。
これからも増えていくであろうプロの芸人のYouTube進出。テレビでは発揮しきれないセンスを世に知らしめる場として活用されることを期待したい。