世界最大手の音楽ストリーミングサービス「Spotify」。Spotifyでは、アーティストごとにリスナーの所在地の上位5都市が表示され(たとえば「Tokyo, JP」「Chicago, US」のように) 、それぞれの都市のリスナー数もわかるようになっている。だれがどんな国や都市でよく聴かれているのか、つらつらと眺めていると意外と興味深いものがある。
そこで今回は、2020年4月現在、Spotifyにおいて日本よりも海外でより多く聴かれている日本人アーティストを調べてみることにした。これはもちろん、あくまでSpotifyというサービス限定の話であり、またあくまでリスナーの所在地上位5都市のリスナー数において、日本より海外の都市の人数のほうが多いアーティスト、という意味である。
確認できない所在地の6位以下の内訳によっては、結局日本のリスナーがいちばん多いというケースもあるだろうし、この数字によって本当の意味で海外人気の高い日本人アーティストがわかるわけではないし、日本人のファンが圧倒的に多く、しかし海外のファンもそれなりに多い、というパターンのアーティストについては完全に取りこぼすことになる。また、当然ながら、私が把握しきれていないアーティストも多数いる。
これらの点に留意して読んでいただけると幸いである。
AmPm
2017年にデビューした正体不明の覆面2人組ユニット、AmPm(アムパム)。月間リスナー数は約43万人。デビュー曲『Best Part Of us』がいきなり話題になったころと比べると落ち着いた数字だが、それでも多くのリスナーを獲得している。所在地1位はシンガポールで、約3万人。2位以下はマレーシアのクアラルンプール、台湾の台北、マレーシアのプタリンジャヤで、5位にようやく日本の東京が出てくる。
曲ごとの再生回数では前述の『Best Part Of us』が3000万回オーバーで圧倒的。2位の曲は400万回ほどなので、文字通り桁違いである。
YELLOW MAGIC ORCHESTRA
細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一による音楽ユニット、YELLOW MAGIC ORCHESTRA。月間リスナー数は約13万人で、リスナーの所在地1位は日本の東京(およそ3000人)だが、2位から4位が海外で、それぞれアメリカのロサンゼルス、イギリスのロンドン、アメリカのブルックリンとなっている。
もっとも再生されている楽曲はやはり『RYDEEN』。日本でいちばん聴かれている曲であろうことは簡単に予想がつくが、海外でも同様なのかは判断できない。ほかには『イエロー・マジック(東風)』や『BEHIND THE MASK』などがSpotifyではよく聴かれているようだ。
幾何学模様
2012年に結成されたサイケデリックロックバンド、幾何学模様。最初の音源がギリシャのレコード会社からリリースされたり、現在はアムステルダムに拠点を置いていたりと、海外での活動がメインとなっている彼ら。日本での知名度は高くないが、Spotifyの月間リスナー数は30万人に迫っている。
リスナーの所在地の上位5都市はすべて海外。1位がアメリカのロサンゼルスで、約6000人。以下、オーストラリアのメルボルン、シドニー、アメリカのシカゴ、シアトルとなっている。今後、いわゆる「逆輸入」の形で日本でも人気が出るか、注目のバンドである。
Cornelius
元フリッパーズ・ギターの小山田圭吾によるソロユニット、Cornelius。海外でも積極的にツアーなどをおこなっている彼は、Spotifyでも海外のリスナーを獲得している。月間リスナー数は約17万人。所在地の1位は日本の東京で、約2700人。2位以下は、メキシコのメキシコシティ、アメリカのロサンゼルス、イギリスのロンドン、アメリカのブルックリンとなっている。
楽曲では『あなたがいるから』がいちばん再生されているが、そのほかの楽曲もバランスよく聴かれている。
坂本慎太郎
ゆらゆら帝国の元メンバーで、現在はソロで活動する坂本慎太郎。ゆらゆら帝国も海外のリスナーがいることは確認できるが(アメリカのロサンゼルスとブルックリン)、日本のリスナーのほうが確実に多い。が、坂本慎太郎のリスナーは完全に海外が中心のようだ。
月間リスナー数は40万人弱。所在地1位はブラジルのサンパウロで、約9000人。2位はほぼ同数で、アメリカのロサンゼルス。以下、アメリカのブルックリン、イギリスのロンドン、ドイツのベルリンとすべて海外の都市である。再生回数がいちばん多いのは『まともがわからない』。これは日本のリスナーが数字を押し上げている気がしないでもない。
坂本龍一
YMOの項でも名前が出た坂本龍一だが、ソロとしての月間リスナー数は100万人超で、13万人のYMOと比較しても非常に多くのリスナーを獲得している。所在地1位はイギリスのロンドンで、およそ1万8000人。2位以下は、フランスのパリ、アメリカのロサンゼルス、スペインのマドリード、ドイツのベルリンと、欧米の主要都市で占められた。
日本でいちばん有名な曲はおそらく『energy flow』だと思われるが、Spotifyでもっとも聴かれているのは映画『戦場のメリークリスマス』で起用されている『Merry Christmas Mr.Lawrence』である。『energy flow』は人気トップ10になんとか入る、くらいのポジションのようだ。
tricot
2010年に結成されたバンド、tricot。2019年に満を持してメジャーデビューを果たした彼らだが、そのずいぶんまえから海外でもファンを獲得しており、それはSpotifyにも反映されている。
月間リスナー数は約10万人。所在地の1位はチリのサンティアゴで、約1600人。2位以下は、日本の東京、アメリカのシカゴ、ロサンゼルス、ヒューストンとなっている。1位はちょっと謎だが、おもにアメリカでリスナーを獲得しているようだ。楽曲は『potage』『POOL』『爆裂パニエさん』などがよく聴かれている。
Nujabes
2010年に交通事故で急逝したヒップホップのトラックメーカー、Nujabes。2018年に海外でもっとも聴かれた国内アーティストの3位となったのはダテではない。月間リスナー数は約80万人。所在地の1位はアメリカのロサンゼルスで、約1万7000人。2位以下は、フランスのパリ、アメリカのシカゴ、チリのサンティアゴ、アメリカのサンフランシスコとなっている。
いちばん再生回数が多いのは『Feather(feat.Cise Starr&Akin from CYNE)』だが、そのほかの楽曲もバランスよく聴かれている。彼の新曲を聴くことは残念ながら叶わないが、海外でこれだけ聴かれているアーティストなのだから、日本でももっと話題になっていいだろう。
フィッシュマンズ
1987年に結成され、1999年にボーカルとギターを務める佐藤伸治が急逝したことで活動休止となったバンド、フィッシュマンズ。理由は寡聞にして知らないが、2016年か17年ごろから海外でひそかに評価があがっているらしい。
月間リスナー数は16万弱。所在地の1位はアメリカのロサンゼルスで、約3000人。2以下は、日本の東京、アメリカのシカゴ、ブルックリン、シアトルとなっており、おもにアメリカでリスナーを獲得しているようだ。楽曲では『BABY BLUE』の再生回数が頭ひとつ抜けている。
The fin.
2010年に結成されたバンド、The fin.。当初は日本で活動していたが、その後イギリスに拠点を移し、海外をメインに活動。4人いたメンバーが現在は2人となるなど、体制の変化も激しいバンドである。
月間リスナー数は8万人ほど。所在地1位は台湾の台北で、約7000人。2位以下は、タイのバンコク、香港の中環、日本の東京、台湾の台中。歌詞は全編英語だが、英語圏よりアジアでの人気が高いようだ。楽曲では『Night Time』がもっとも再生されている。
BABYMETAL
女性アイドルグループのさくら学院から派生したメタルユニット、BABYMETAL。ある時期からメディアで盛んに「海外での人気がすごい!」と話題にされてきた彼女たちだが、Spotifyにおいてもその惹句が嘘ではないことが確認できる。
月間リスナー数は約50万人。所在地の1位はメキシコのメキシコシティで、約8000人。2位以下は、チリのサンティアゴ、アメリカのシカゴ、インドネシアのジャカルタ、アメリカのロサンゼルス。再生回数では『ギミチョコ!!』『KARATE』『メギツネ』の3曲が頭ひとつ抜けている。
細野晴臣
坂本龍一と同じく、2度目の登場となる細野晴臣。ソロでの月間リスナー数は約22万人。坂本龍一ほどではないが、こちらもYMO以上にリスナーを獲得している。所在地の1位はアメリカのロサンゼルスで、約5000人。2位以下は、アメリカのブルックリン、日本の東京、イギリスのロンドン、アメリカのニューヨークとなっている。
いちばん再生されているのは『ろっかばいまいべいびい』だが、特定の曲に人気が集中している様子はなく、満遍なく聴かれているようだ。細野晴臣というアーティストそのものが支持されていることの証左だろう。
RADWIMPS
2001年に結成された人気ロックバンド、RADWIMPS。彼らの海外人気はもしかするとアニメ映画『君の名は。』がきっかけかもしれないので、下記のとおり割愛すべきかとも思ったが、しかし肝心の『前前前世』などの楽曲がSpotifyでは配信されておらず、にもかかわらず海外のリスナーを多く獲得しているため、個別に取りあげることにした。
月間リスナー数は約180万人。所在地の1位はインドネシアのジャカルタで、その数は約5万8000人。2位以下は、日本の東京、台湾の台北、シンガポール、日本の大阪で、いずれの都市も3万人を超えている。もっとも聴かれているのは『いいんですか?』だが、どの曲もバランスよく聴かれており、アニメの人気に依存している様子は感じられない。一部の楽曲しか解禁されていないのが惜しい。
アニメの影響で海外リスナーを獲得しているアーティストたち
おもにアニメの影響でリスナー数が日本<海外となっているアーティストは非常に多く、今回の記事ではそれらのアーティストについては逐一取りあげなかった。以下に、その一部をリストとして記しておく。
- ASIAN KUNG-FU GENERATION(『NARUTO -ナルト-』)
- amazarashi(『僕のヒーローアカデミア』など)
- シド(『鋼の錬金術師』など)
- the pillows(『フリクリ』)
- FLOW(『NARUTO -ナルト-』など)
まとめ
以上、13組のアーティストをピックアップした。
前述のとおり、上記以外に私が把握しきれていないアーティストも多くいるはずである。そう考えると、海外でその楽曲がそれなりの数の人に聴かれている日本人アーティストは意外と珍しくないのかもしれない。
ちなみに、海外で人気の日本人アーティストとして筆頭で名前があがりそうなONE OK ROCKは、インドネシアのジャカルタに9万人弱のリスナーがいることは確認できたが、そのほかは日本の都市しか把握できなかった。海外でも人気はあるが、それ以上に日本人のリスナーが多い、というパターンだろう。
基本的には邦楽は世界的に聴かれているとは言いがたいとは思うが、ストリーミングサービスの普及によって海外に発信するハードルは確実に下がっている。今度はさらに多くのアーティストが海外のリスナーを獲得する状況になっていくのではないだろうか。